拡大する総合型選抜・学校推薦型選抜の今後
こんにちは。
受験情報センター長の鈴村です。
国公立・私立大学ともに医学部全体の募集人員に占める総合型選抜および学校推薦型選抜の割合が拡大を続けています。医学部で総合型選抜・学校推薦型選抜を行っていない大学は、国公立大学では九州大学と千葉大学、私立大学では自治医科大学と東京慈恵会医科大学の2校しかありません。これまで行っていなかった東北医科薬科大学も2025年度から総合型選抜を導入します。
ベネッセ教育情報センターの大学調査をもとに、医学部と他学部の今後の総合型選抜・学校推薦型選抜の今後を考えます。
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国公立医学部の総合型選抜・学校推薦型選抜
国公立医学部の総合型選抜・学校推薦型選抜の多くは地域枠やそれに準じる募集枠であり、共通テスト利用を課す大学がほとんどです。共通テストを課さない大学独自の試験を行う国公立医学部は、東北大学のAO入試や筑波大学の推薦、福島県立医科大学・高知大学の総合型選抜など、数えるほどしかありません。
総合型選抜・学校推薦型選抜といえば「年内入試」というイメージがありますが、国公立医学部に関しては「ボーダーラインの低い共通テスト利用」という捉え方の方が実状に近いかもしれません。
メルリックス学院名古屋校からは、今年名古屋市立大学医学部に中部圏活躍型推薦で4名が合格しましたが、彼ら/彼女らもまずは推薦に向けての準備をしながら、押さえとして私立医学部を受験し、ダメなら国公立医学部の前期試験を受ける予定でした。
私立医学部の総合型選抜・学校推薦型選抜
対照的に私立医学部の総合型選抜・学校推薦型選抜は「年内入試」がほとんどであり、共通テスト利用を課す大学はそれほど多くありません。東海大学医学部の<希望の星育成>選抜や、大阪医科薬科大学の<至誠仁術>入試、そして2023年度から始まった産業医科大学総合型選抜は、大学独自の選抜試験の後に共通テストを課す形式を取っています。
しかし、多くの私立医学部は英語・数学のみ、または英語・数学・理科を大学独自の試験で課す形式の総合型選抜・学校推薦型選抜を行っています。全く学力試験がない選抜方式はありませんが、それでも一般選抜の問題に比べれば基本的なレベルの問題が出題されるケースが多く、医学部受験生にとってはチャンスのひとつとなっています。
学力試験の科目負担が少ない総合型選抜・学校推薦型選抜としては、東邦大学医学部のAO入試・卒業生子女入試・地域枠推薦入試や、愛知医科大学医学部の国際バカロレア選抜が挙げられます。
他学部の総合型選抜・学校推薦型選抜
このように、一般選抜よりは「いくぶんボーダーラインの低い入試」という位置付けの医学部における総合型選抜・学校推薦型選抜ですが、他学部では様相が異なります。
ベネッセ教育情報センターの大学調査によると、大学入試において総合型選抜・学校推薦型選抜による入学者の割合は半分を超え、2023年度では51.4%となっています。一般選抜の入学者との割合が逆転したのがちょうど2021年度であり、特に私立大学の入学者は6割近くが総合型選抜・学校推薦型選抜で入学しています。
ベネッセ教育情報センターの調査では、総合型選抜・学校推薦型選抜で受験生に求めるものとして、最も多いのは「大学での学びに対し、意欲の高い生徒に入学してほしい」というものでした。次に「大学での学びに対する適性の高い生徒に入学してほしい」が続き、一般選抜ほど学力試験を課さない分、意欲や適性の高い生徒に入学してほしいと大学が考えていることがわかります。
また、総合型選抜・学校推薦型選抜で、最も重視する選抜方法は「面接」が最も多く、次いで「教科試験」「小論文」と続きます。「その他」を挙げた大学も多く、その内訳はプレゼンテーションやレポートといったものでした。
一般選抜で入学してくる学生との違い
この調査結果から浮かび上がってくるのは、たとえ入学した時点での学力は一般選抜の入学者より低くても、大学のカリキュラムを意欲的に学ぶことによって、入学後の伸びを期待されている総合型選抜・学校推薦型選抜で入学した学生たちの姿です。
日本の大学受験はその構造上、多くの受験生が一般選抜で第一志望には合格できず、本当は行きたかった大学がありながらも、受かった大学の中から最も偏差値の高い大学に行くことがほとんどです。そういう意味で「母校愛」を抱いて入学してくる学生の割合は、一般選抜においてはそれほど多くないと言えるでしょう。
ベネッセ教育情報センターの調査によると、総合型選抜で入学した学生の特徴で最も多いのは「大学の授業以外の活動(資格取得や地域貢献活動など)において積極的な学生が多い」でした。学校推薦型選抜で入学した学生の特徴で最も多いのは「大学での学習に対する意欲が高い」です。これは一般選抜の学生とどちらが優れているといったことではなく、さまざまなタイプの学生が共に学ぶことによって、お互いに良い影響を与え合うことが期待されていると考えられます。
今回の調査では一部で悪名高い(?)指定校推薦についても調査されており「指定校推薦では基本的に不合格にすることはない」と回答した大学が全体の51%ありました。ということは、49%の大学は、面接や学力試験の結果、提出書類の内容によっては不合格にすることがあることになります。特に「面接の結果によっては不合格することがある」と回答した大学は31%に上り、面接で学習意欲や適性の高さが認められない場合は、不合格になる受験生がいることがわかります。
医学部入学後の成績
医学部における総合型選抜・学校推薦型選抜は、6年後に医師国家試験が控えている以上、やはり最終的には「学力勝負」になります。いくら面接や出願書類で志望意欲の高さをアピールできても、学力試験で基準に達していなければ不合格になります。
その基準が一般選抜に比べれば低いことが多いため、医学部受験生にはまず「推薦や総合型選抜を考えて」とアドバイスしています。
医学部入学後の成績が入学試験の成績と相関しないことは、多くの大学関係者が明言していますが、総合型選抜・学校推薦型選抜で入学した学生は、医学部入学後は「成績上位か下位のどちらか」に極端に分かれることが多いようです。
総合型選抜・学校推薦型選抜での合格を目指して、事前にコツコツと準備してきた適性が、そのまま大学でも発揮できれば成績上位をキープできる反面、一般選抜よりも低い倍率で合格できたと捉える学生は、どこか入学後の勉強に真剣になり切れず、要領の良さだけで乗り切ってしまおうとするのかもしれません。
医学部入学後の成績は、どれだけ医学部に興味・関心を持って計画的に勉強できるかで決まります。たとえ、一般選抜で成績上位で合格したとしても「もっと上の大学に行きたかった」と仮面浪人をしている学生もいます。
受験校を決める時は、ぜひ「入学後も納得して医学の勉強に取り組める大学」を選んでほしいと、進路指導をする身としては切に思います。
※この記事を書くために参考にした【VIEWnest】はこちらから電子版をお読みいただけます。興味のある方はぜひご一読をお勧めします。