共通テスト利用選抜の志願者数から見る医学部受験生の変化

こんにちは。
受験情報センター長の鈴村です。


今日は私立医学部の共通テスト利用選抜についての分析記事をお届けします。センター試験時代と比べて明らかに変化している点について詳しく解説していきます。


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目次[非表示]

  1. 1.私立医学部の共テ利用は大きく4パターンに分かれる
    1. 1.1.【過去5年間】私立医学部共テ利用志願者数(3教科5科目型)
    2. 1.2.【過去5年間】私立医学部共テ利用志願者数(4教科6科目型)
    3. 1.3.【過去5年間】私立医学部共テ利用志願者数(5教科7科目型)
    4. 1.4.【過去5年間】私立医学部一般・共テ併用志願者数
  2. 2.共通テストになってからの変化
  3. 3.カギは三大都市圏の医学部受験者動向
  4. 4.医学部志願者が増え続けている背景

私立医学部の共テ利用は大きく4パターンに分かれる

私立医学部の2023年度共通テスト利用選抜は前年比で約3割の志願者増となりました(4/23現在判明分)。センター試験から共通テストに切り替わった2021年度以降、減少傾向にあった私立医学部の共テ利用にようやく志願者が戻ってきました。


※今回は共通テスト前に出願が締め切られる前期試験のデータを扱っています。中期・後期試験は共通テストの平均点によって志願者数が上下するため、純粋に比較するのは難しいためです。


まず、私立医学部の共テ利用(センター利用)には大きく分けて4つのタイプがあります。


1.英語・数学・理科2科目の3教科5科目型
2.英語・数学・理科2科目・国語(近代以降)の4教科6科目型
3.国公立医学部と同じ英語・数学・理科2科目・国語・地歴公民1科目の5教科7科目型


さらに一般選抜と共通テストの両方を受験することで合否が判定される「併用型」の入試もあります。


4.一般選抜と共通テストの両方を利用する併用型


それではこれらの入試を順番に見ていきましょう。


1.英語・数学・理科2科目の3教科5科目型

このタイプは私立医学部の一般選抜と試験科目が同じです。よって国公立医学部を志望している受験生だけでなく、私立医学部を専願とする受験生でも出願しやすいのが特徴です。そのためセンター利用の時代には、杏林大学や獨協医科大学、東海大学などが1,000人を超える志願者を集めていました。


【過去5年間】私立医学部共テ利用志願者数(3教科5科目型)

大学名
試験区分
2019年度
2020年度
2021年度
2022年度
2023年度
獨協医科大学
共テ利用
1,185人
1,106人
601人
511人
553人
杏林大学
共テ利用
1,195人
1,035人
750人
685人
943人
東海大学
共テ利用
1,164人
903人
615人
445人
657人
近畿大学
共テ前期
600人
600人
404人
451人
557人
合計
4,144人
3,644人
2,370人
2,092人
2,710人

※2020年度はセンター利用最後の年

共通テストに移行した2021年度以降、このタイプの共テ利用は志願者が大きく減少しました。数ⅠAなど面倒そうな共通テストの対策をわざわざする時間がもったいないと考えた私立医学部専願者が多かったのではないかと予想されます。


ところが共通テスト3年目の今年は受験生の動きに変化がありました。再び1,000人近くの志願者を集めた杏林大学とそれ以外の3校に分かれたのです。



ただ、このタイプの医学部のうち唯一関西にある近畿大学は、センター利用時代から「ボーダーラインが高い」という噂を受験生が敬遠してか、志願者数はそこまで多くありませんでした。そのため今年の557人という志願者は、センター最後の年である2020年度の600人と比較すると「戻ってきた」と言ってもいいかもしれません。


さて、この4校はいずれも合格最低点を公表していませんが、合格者からの聞き取り調査から予想すると「近畿=杏林>東海=獨協医科」といったところです。


また、私立医学部の共テ利用は2次試験を本学キャンパスで行いますが、東海と獨協医科は一般選抜の2次試験と同日に実施します。そのため、一般と共テ利用の両方に1次合格した場合、2次試験は1回だけで済むという利点があります。杏林大学と近畿大学は共テ利用の1次試験に合格すると、一般選抜とは別の日にわざわざ2次試験を本学キャンパスまで受けに行く必要があります。


東海と獨協医科の方が合格最低ラインが低く、2次試験も受けやすいにも関わらず、そのことが志願者増に繋がっていないことから、センター利用時代と共テ利用になってからでは、医学部受験生の志向に変化があったことがうかがえます。


2.英語・数学・理科2科目・国語(近代以降)の4教科6科目型

タイプ1の英語・数学・理科2科目に国語(近代以降)をプラスしたのがこのタイプです。古文・漢文を含む国語ではなく、現代文のみというところがポイントです。


【過去5年間】私立医学部共テ利用志願者数(4教科6科目型)

大学名
試験区分
2019年度
2020年度
2021年度
2022年度
2023年度
愛知医科大学
共テ前期
966人
955人
713人
603人
809人
藤田医科大学
共テ前期
709人
596人
547人
500人
702人
大阪医科薬科大学
共テ利用
466人
449人
422人
461人
675人
福岡大学
共テ利用
1,002人
867人
99人
484人
434人
合計
3,743人
3,467人
2,185人
2,499人
3,177人

※大阪医科薬科大学は2022年度入試から4教科6科目型。それまでは5教科7科目型。
※福岡大学の2021年度共テ利用はコロナのため通常Ⅰ期で実施していた選抜をⅢ期で実施した。


私立医学部は一般選抜の2次試験で小論文と面接を課す大学がほとんどです。1次試験で小論文を実施し、最終合否判定の際に合算する医学部もありますが、一般選抜で小論文を課さない大学は岩手医科大学と藤田医科大学、そして関西医科大学のみです。(2023年度現在。東邦大学は1次試験の基礎学力で要約が出題されます)


ところが、共テ利用の2次試験は一般選抜と同日で行う医学部を除けば、面接のみという簡素な大学がほとんどです。「国公立医学部と併願している受験生がなるべく受けやすいように」という配慮だと思われます。その代わりというわけではないのでしょうが、共通テストの科目に国語(現代文)を課しているのがこのタイプの共テ利用です。


私立医学部専願の受験生には「隠れ文系」とでもいうべき、古文・漢文のない現代文ならある程度は得点できるという人が多く、このタイプのセンター利用を行っている医学部はそれなりに多くの志願者を集めていました。


ただ、共通テストになってからは、このタイプの共テ利用はやはり私立医学部の専願者から敬遠されがちだったのか、志願者は減少傾向にありました。ところが共通テスト3年目の今年、愛知医科大学・藤田医科大学・大阪医科薬科大学は多くの志願者を集め、福岡大学は昨年よりさらに減少するという結果になりました。


共通テストの最低ラインを比較すると、おそらく「大阪医科薬科>藤田医科>愛知医科=福岡」になると思われます。また、福岡大学は一般選抜と同日に2次試験を実施します。1のタイプと同様、合格最低ラインが低く受けやすいと思われる大学が志願者を集め切れていない状況です。


3.英語・数学・理科2科目・国語・地歴公民1科目の5教科7科目型

3つ目のこのタイプは国公立医学部と同じ5教科7科目型の共テ利用です。センター試験から共通テストに変わった影響が最も少なく、学費を下げた関西医科大学は今年初めて共テ利用で志願者が1,000人を超えました。他の大学も順調に志願者数を増やしてセンター時代よりも多くの受験生を集めている大学がほとんどです。


【過去5年間】私立医学部共テ利用志願者数(5教科7科目型)

大学名
試験区分
2019年度
2020年度
2021年度
2022年度
2023年度
国際医療福祉大学
共テ利用
1,082人
972人
740人
829人
921人
順天堂大学
前期共テ利用
669人
711人
635人
628人
705人
東京医科大学
共テ利用
347人
700人
537人
503人
769人
関西医科大学
共テ利用前期
853人
833人
561人
590人
1,115人
合計
2,951人
3,216人
2,473人

2,550人

3,510人

※東京医科大学の2019年度センター利用は不正入試の影響で募集人員12人で実施された。


4.一般選抜と共通テストの併用入試

最後は一般選抜と共通テストの両方を受験して合否を判定する併用型入試です。こちらは「国語(古文・漢文を含む)」のみを利用する日本医科大学を除けば、共通テストは5教科7科目型です。よって3のタイプと同じく順調に志願者を集めています。


【過去5年間】私立医学部一般・共テ併用志願者数

大学名
試験区分
2019年度
2020年度
2021年度
2022年度
2023年度
順天堂大学
独自併用
649人
623人
495人
475人
541人
関西医科大学
一般共テ併用
597人
562人
469人
485人
931人
産業医科大学
一般選抜
1,868人
1,616人
1,248人

1,265人

1,315人
合計
3,114人
2,801人
2,212人
2,225人
2,787人

日本医科大学は2023年度入試の志願者がまだ公表されていないため、判明している3校のみの比較となっています。
産業医科大学もこのタイプに入れていますが、来年度からは、①私立医学部の一般選抜型、②共通テスト利用選抜型、③これまで通り共通テスト+一般選抜の併用型の3つに分かれると公表されています。

【産業医科大学】令和6年度入学者選抜(医学部)の実施要項等 (2023.3.31現在)


共通テストになってからの変化

ここまで順に見てきましたが、センター試験の時代と共通テストの現在を比較すると、私立医学部の共テ利用の受験者層が変化したことがハッキリわかります。


センター利用の時代は「国公立型に近ければ近いほど志願者は少ない」傾向にありました。ゆえに3教科5科目型の獨協医科大学、杏林大学、東海大学などが多くの1,000人を超える志願者を集めていました。


ところが、共テ利用になってからは「国公立型に近いほど志願者が多い」という正反対の現象が起きています。かつて志願者が1,000人を超えていた獨協医科大学、東海大学、福岡大学は志願者が戻り切っておらず、学費を下げた5教科7科目型の関西医科大学の志願者が1,000人を超えるなど、以前とは明らかに違う動きがあります。


カギは三大都市圏の医学部受験者動向

これらから、2つのことが言えます。
1つは私立医学部専願の受験生は以前よりも共テ利用を敬遠するようになったこと。
もう1つは国公立医学部志望の受験生が、私立医学部の共テ利用を併願する率が上がっていること。


さらに言えば、同じ私立医学部の共テ利用でも杏林大学、大阪医科薬科大学、関西医科大学、愛知医科大学、藤田医科大学といった三大都市圏にある大学の志願者が増えているのに対し、獨協医科大学、東海大学(首都圏から通学するには微妙な場所にあります)、福岡大学の志願者が伸び悩んでいます。



このことから、三大都市圏に住む国公立医学部志望者が、以前よりも自宅から通える私立医学部を進学先として真剣に考えているのではないかという仮説が成り立ちます。



医学部志願者が増え続けている背景

国公立医学部は私立医学部と異なり、共通テスト後に大手予備校が発表するボーダーラインと自己採点の結果を照らし合わせて受験校を決めます。もし思ったよりも共通テストで点数が取れなかった場合、私立医学部メインに切り替える受験生は結構います。
彼ら/彼女らは初志貫徹で第一志望の国公立に出願して玉砕したり、そもそも国公立への出願をやめたり、出願はしたけれど行きたい私立医学部に合格したので受けに行かなかったりといった行動を取ります。


そうやって受験者が減ってボーダーラインが下がることで、これまで合格圏外だった受験生にもチャンスが生まれます。
医学部受験生の中にはご家族から「医学部は国公立しかダメ」と言われている子もおり、ボーダーラインが下がることでこれまでよりも多くの受験生にチャンスが広がることになります。


国公立医学部も私立医学部も昨年度の志願者は増加しましたが、その背景にはこのような受験生の志向の変化があるのかもしれません。


2025年度入試から聖マリアンナ医科大学が共通テスト利用選抜を実施すると発表しています。果たして共通テストでどんな科目を課すのか注目したいと思います。

聖マリアンナ医科大学【事前予告】令和7年度入学者選抜について

鈴村
鈴村
メルリックス学院医学部・歯学部受験情報センター長

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