第117回医師国家試験の結果から見る良い医学部とは何か
こんにちは。
受験情報センター長の鈴村です。
今日は第117回医師国家試験の結果についてお話しします。
大学別の合格率はこちらからPDFファイル(120KB)をご覧ください。
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第117回医師国家試験の発表がありました
今日の14時に第117回医師国家試験の合格発表日がありました。
合格者は9,432人、合格率は91.6%でした。
これで全体の合格率は4年連続で90%を超えました。
医師国家試験の仕組みは医学部受験とは全く異なります。
受験は絶対評価ですが、医師国家試験は相対評価であり、「下位の約1割」が不合格になるように厚生労働省が合格基準を毎年決定しています。
国試は必修問題とそれ以外に分かれており、それぞれ合格ラインが定められています。また、禁忌肢問題を一定数以上選択すると、総得点に関わらず不合格になります。
コロナ禍になってから医師国家試験の合格率が90%を超えているのは、医師不足であることの他に2024年4月から実施される医師の働き方改革を見据えてのことだと思われます。勤務医の時間外労働の上限が決められ、これまでのような長時間労働が難しくなるため、医師数を増やして全体の労働時間を減らそうという試みがなされています。
順天堂大学が新卒・既卒ともに全員合格のパーフェクト
さて、今年の大学別合格率を改めて見ると、順天堂大学が新卒・既卒共に100%の合格率を達成しています。順天堂大学は毎年高い合格率を維持していますが、今年はパーフェクトという素晴らしい結果です。
とはいえ、順天堂大学の「学生募集に関するミッション」には「単に医師国家試験合格だけを目指すのではなく、国試をものともしない、知性と教養と感性溢れる医師となるための教育を行います。」とありますので、あくまで6年間ストレートで国試に合格することは教育目標のひとつであり、もっと先を見据えた医師教育を行っているとも言えます。
ちなみに新卒というのは文字通り「今年卒業する学生」のことであり、既卒というのは「既に卒業した人」のことを言います。よく言われる「国試浪人」というのは、医学部を卒業したけれど国試に受からず浪人している人のことです。浪人期間は国試予備校に通ったり、自分で勉強したりして1年を過ごします。
普通は既卒よりも新卒の方が合格率が高くなります。これは既卒の中には「国試1浪目」の人ばかりでなく、かなり前に医学部を卒業して未だに国試を受け続けている人が含まれているためです。実際に公表されている数字を見ても、既卒で最も多いのは1浪の316人(68.7%)ですが、2014年以前の卒業者が4人受験しています。
以前、ある新設医大の方に聞いたことがありますが、1期生や3期生という数十年前に卒業した人達が未だに国試を受けている例もあるそうです。大学としては、既卒の合格率が良くないと新卒と既卒を合わせた全体の合格率に響くことから、そういった方々とはいろいろと相談にのることもあるとおっしゃっていました。
国際医療福祉大学の1期生合格率は99.2%
また、今年は2017年に設立された国際医療福祉大学医学部の1期生が初めて国家試験を受けた年でもありました。全員が新卒(6年生)ですから、134人が出願して125人が受験し、124人が合格と合格率は99.2%でした。
国際医療福祉大学は1学年の定員140人のうち20人が主にアジアからの留学生ですから、この124人の中には当然留学生も含まれていると思われます。それぞれの国を代表して来ている留学生は大変優秀と聞いていますから、母語でない日本語(一部英語)で講義を受けて勉強し、日本の国試に合格することも充分に可能なのでしょう。
※留学生15人が医師国家試験に合格したことが公表されました。こちらから。
昨年、1期生が卒業した東北医科薬科大学は今年の新卒合格率は98.9%、さらに既卒者3人が3人とも合格しています。新設されたばかりの医大ということで、先生方は最初から「変なことをしても数字のごまかしが効かないから」となるべく留年者を出さないように手厚く面倒を見るとおっしゃっていました。そういった取り組みがこういうところにも出ていると感じます。
国立・私立より公立大学、男性より女性
ちなみに国立大学の全体合格率は92.4%、公立大学の全体合格率は94.5%、私立大学の全体合格率は92.3%です。例年、公立大学の合格率が最も良いという傾向は変わりません。
男女別に見ると、男性の合格率は91.0%、女性の合格率は93.0%と、これも例年女性の合格率が男性を上回っています。
国立大学は東京大学などがその代表格ですが、国試対策を見据えたカリキュラムなどは編成されていないことが多く、学生に対しても放任主義の傾向があります。逆に私立大学は「国試合格率=大学の優秀さ」と格付けされるのではないかという意識が強く、多くの大学で国試の合格率を上げるための試みがなされています。公立大学は国立大学に比べると国試への意識が高い大学が多く、また定員が小規模な大学もあるので、結果として学生に目が行き届く傾向にあると推測されます。
医学部受験のプロはどこを見ているのか?
私が気になるのは、やはり出願者数と受験者数の差です。また、1学年の定員と比べて出願者数がどのぐらいいるのかも気になります。出願者と受験者の差が大きければ大きいほど、合格の見込みが少ない学生を卒業試験などで落として国試を受けさせていないということになります。また、1学年の定員に比べて出願者数が非常に多い場合は、6年生の中に留年者が相当数いるということにもなります。
ただ、出願者数が少なければいいかというと、あまりにも定員に比べて少ない大学は低学年のうちから成績不良者を留年させている可能性が高いので、その点も注意して見る必要があります。
そういう視点から見ると、出願者数と受験者数がほぼ同じ数で、合格率があまり振わない大学を見ると「正直だなあ…」という感想を抱きます。何とか数字を良くしようと頑張っている大学がある一方で、飾らない数字を出している大学があるというのは、教育機関としての誠実さを感じます。
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