
最新の大学受験動向と医学部受験の多様化|医学部受験情報センターより
こんにちは。
受験情報センター長の鈴村です。
現在、受験情報センターでは2026年度版の【医歯学部受験攻略ガイド】の編集作業中です。2020年に初版を発行したこの受験情報誌も今年で26年目となりました。
2023年度からは従来の<私立版>だけでなく、<国公立版>も発行していますが、今日はその【医歯学部受験攻略ガイド】の中から、医学部受験の最新動向について書かれた記事を紹介します。ぜひ医学部受験生と保護者の方は参考にしていただきたいと思います。
最近の医学部受験の動向
大学受験といえば、一般選抜(一般入試)。特に受験生の親世代にあたる 40代、 50代の方は、そういうイメージをお持ちではないでしょうか。
しかし、現在では文部科学省が旗振り役となって「大学受験の多様化」を進めています。
大学受験における総合型選抜(旧AO入試)・学校推薦型選抜(推薦入試)による入学者の割合は半分を超え、 2023年度では 51.4%となっています。一般選抜の入学者と年内入試(総合型・学校推薦型選抜)の割合が逆転したのが 2021年度であり、特に私立大学の入学者は 6割近くが総合型選抜・学校推薦型選抜で入学しています。
総合型選抜・学校推薦型選抜で最も重視する選抜方法は「面接」が最も多く、次いで「教科試験」「小論文」と続きます。しかし、医学部は卒業時に医師国家試験が控えていますので、総合型選抜・学校推薦型選抜といえども、やはり最終的には「学力勝負」になります。
国公立医学部医学科の募集人員に総合型選抜・学校推薦型選抜が占める割合は約 3割ですが、その多くが地域枠やそれに準じる募集枠です。そして「共通テスト」を課す大学がほとんどです。共通テストを課さない大学独自の試験を行う国公立医学部は、東北大学の AO入試や筑波大学の学校推薦型選抜、福島県立医科大学・高知大学の総合型選抜など、数えるほどしかありません
対照的に、 私立医学部の総合型選抜・学校推薦型選抜は募集人員全体の 2割前後と国公立医学部より少なく、また「年内入試」がほとんどです。多くの私立医学部は英語・数学、または英語・数学・理科を大学独自の試験で行います。一般選抜の問題に比べれば基礎的なレベルの問題が出題されるケースが多く、医学部受験生にとってはチャンスのひとつとなっています
その中でも、 東海大学医学部の<希望の星育成>選抜や、 大阪医科薬科大学の<至誠仁術>入試、産業医科大学の総合型選抜、そして 2025年度から始まった 帝京大学医学部の総合型選抜は、小論文や面接といった試験の後に共通テストを課す形式を取っています。
このように難関である医学部受験も「学力試験でガチンコ勝負」オンリーの時代から、「入試の多様化に合わせて年内入試から検討するのがベター」という時代になりつつあります。
難問から基本重視へ
とはいえ、年内入試の割合が増えても、医学部受験が難関であることに変わりはありません。一昔前の難関大学の入試といえば「レベルの高い受験生を難問でふるいにかける」という傾向がありました。今も東京大学の一般選抜における合格最低点は、理科三類を除けば 6割前後で推移しています。
ところが、高大接続改革が進み、センター試験から共通テストへと移行し、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」の学力の三要素が重視されるようになり、入試の潮流は知識偏重から基礎重視へと変わりつつあります
その一方で、 問題文の量は増え続けています。例えば、 2024年度の共通テストにおける英語リーディングの問題文は 6,292語と前年より 150語以上増加しました。 2010年度のセンター試験は 3,533語だったことを考えると、問題文の量は 15年間で約 1.8倍に増えたことになります。
この傾向は他教科でも同じで、 2024年度の共通テストにおける国語の問題は 24,135字と 2022年度の 21,010字から年々増加しています。地歴公民や理科の問題文も徐々に長くなっています。
こうした入試傾向の変化は共通テストだけでなく大学入試全般に及んでいます。 AIが発展して情報社会が到来した結果、以前のように「知っているか/知らないか」という、単なる暗記力を問うだけの問題は少なくなりました。決まった形式を忠実になぞるだけの典型問題も減少傾向にあります。覚えたりパターン処理したりするのは AIに任せて、人間は人間にしかできないことをするということでしょう。
近年は難関である医学部受験でも、知識がなくても解けるように前提条件を文章化して考えさせる問題や、誰もが知っている公式の証明問題など「ただ知っている」だけでは解けない問題が増えてきました。その代わり、扱われる内容は基本的なものが増え、得点できるかどうかは別として、一見すると「易しい」と見える問題が増えてきました
こういった変化が有利に働くのは、まだ使える公式や定理が少ないため問題文が長い中学受験を経験している子たち、それから幼い頃から本を読んで長い文章への耐性がある子たち、さらには英語であれば小さい頃から英語塾に通ったり短期留学したりといった生の英語に触れる経験をしている子たちです。いずれも 早期教育が有利に働くという点で、詰め込み暗記とパターン処理で大学入試で帳尻を合わせるという「一発逆転」の傾向は薄らいできていると言えます。
入試の多様化のお手本である東京医科大学
医学部受験の多様化の一例としては、 東京医科大学が挙げられます。女性差別と年齢差別が大きな社会問題となった東京医科大学は今、毎年のように入試改革を行い、医学部入試のトレンドの先頭を走る存在です。
まず学校推薦型選抜では、評定平均 4.0以上あれば現役生は誰でも受けられる一般公募の他に、茨城県や埼玉県、群馬県、新潟県などの地域枠推薦、また全国を 6つのブロックに分けて選抜する全国ブロック別選抜、さらに 2025年度入試からは CEFR B1以上の人が受けられる英語検定試験利用推薦を新たに導入するなど、多様化が進んでいます。英検 2級を持っていればそれだけ受験機会が広がることになります。
さらに、大学を卒業または卒業見込の受験生が受けられる学士選抜( 1年次入学)が 2025年度から始まりました。もちろん、最も募集人員が多いのは一般選抜の 70名で、共通テスト利用選抜でも 9名以内を募集します。 非常にバランスの良い入試を行っていると言えるでしょう。
ちなみに、英検を持っているとチャンスが広がる入試は他にもあり、代表的なのは英検 1級で共通テストを満点換算する岡山大学医学部です。広島大学や佐賀大学でも英語検定試験を得点換算する制度があり、私立医学部では 関西医科大学の特色選抜や 埼玉医科大学の特別枠推薦、 兵庫医科大学の一般 Bのように、英語検定試験を取得している人しか受験できない入試もあります。さらに 2025年度からは 東邦大学が学部統一入試を行っていますが、医学部のみ CEFR B1以上の出願資格を必要とします。
このように以前にも増して、医学部受験は「情報戦」の様相を呈しており、高校の進路指導や塾・予備校が持っている情報によって進路が左右されるケースが増えています。高校の先生が医学部入試について知らないため、併願できるはずの推薦・総合型選抜の調査書を出してもらえなかったり、医学部の特性を知らずに志望理由書を添削したりといったことも起きています。
一般選抜での「学力勝負」にこだわりすぎず、 自分に合った入試制度を選ぶことが合格の最短ルートであり、情報センターはこれからも早くて正確な医学部入試の情報を皆さんにお伝えしていきます。





