
通信制高校から医学部を目指す受験生のために
こんにちは。
受験情報センター長の鈴村です。
先日、大学の教職員向け研修のご依頼をいただき、通信制高校について調べる機会がありました。増え続ける通信制高校の生徒が医学部を目指す時に注意すべき点についてまとめてみたいと思います。
少子化の中で増え続ける通信制高校の生徒
メルリックス学院にも通信制高校の方は在籍しており、医学部の一般選抜はもちろんのこと、過去には学校推薦型選抜に合格した通信制高校の方もいらっしゃいます。
通信制高校の生徒数は2015年度から毎年連続で増加しており、2024年度の生徒数は29万118人と過去最高を記録。全体の高校生徒数に占める通信制高校生徒の割合は2024年度で9.1%と、ほぼ高校生の10人に1人が通信制高校に在籍している計算になります。
対照的に、高校生全体の人数は10年連続で減少しており、全日制高校の2024年度生徒数は282万6224人と、前年より2万人以上減少しています。2024年に110万人を割った18歳人口は、2025年には109万人とやや増加したものの、その後は100万人台後半を推移しますので、今後も高校生の数が増えることはないと思われます。
ちなみに、2025年上半期の出生数は過去最少の33.9万人を記録しました。昨年の同じ時期と比べて1万794人減であり、昨年の出生数68.6万人を今年はさらに下回ると思われます。
少子化の嵐が吹き荒れる中で、通信制高校の生徒数がこれだけ増え続けていることは特筆すべきことであり、今後しばらくは増えることはあっても減ることはないでしょう。
全員一律で学ぶことが基本の医学部カリキュラム
とはいえ、医学部を志望する際に、通信制高校の出身であることが不利になるのではないかと心配している医学部受験生は多いでしょう。
医学部教員が通信制高校の医学部受験生に対して懸念している点、それは「6年間のタフな試験や実習を乗り切れるかどうか」に尽きると思います。
要するに「休まずに通い続けられるかどうか」ということです。
今回、大学で講演をさせていただくにあたって、通信制高校の先生方や、通信制高校の生徒についての調査を行っている企業の代表様にインタビューすることができました。その中で、通信制高校を選択する方々の中に「全員が同じカリキュラムで学ぶことに疑問がある」という声があることを知りました。
全員が一律のカリキュラムで学ぶ日本の学校教育の中では、当然ながら自分に合わないカリキュラムも出てきます。自分に必ずしもすべて合っているわけではないことを強制されながら、学校行事や委員会、部活動といった活動に追われて、自分のやりたいことができないことに疑問を持つ層がある一定数いるということです。
コロナ禍以降、生徒の学習に向かう姿勢が変わったという意見を色々なところで見かけます。文部科学省の【令和6年度全国学力・学習状況調査 経年変化分析調査】によると、子どもの学力が2021年度と比べて、すべての教科で平均スコアが下がっていることが先ごろ話題になりました。
ゲーム・スマホの使用時間の増加と学習時間の減少が理由として挙げられていますが、何でも先生や親の言うことを鵜呑みにするのではなく、自分自身の好きなことが何なのかを見つけながら、学校の勉強をするだけでなく自分の将来について考えたいという子どもたちの意向が隠されているような気がします。
しかし、医学部のカリキュラムは「全員一律で学ぶ」ことが基本となっています。人数の関係でクラスが2つに分かれたりすることはあっても、1学年の全員がほぼ同じカリキュラムで学び、同じ試験を受験します。選択制の授業はオプションという形を取る大学がほとんどです。
自分に合わないと思っても、無駄だと思っても、皆と同じカリキュラムで学ぶ姿勢が必要になります。少人数グループで実習をすることが多いため、様々な人たちと集団行動ができる能力も必須です。
医学部面接で通信制高校の受験生がアピールするべきこと
医学部にはモデル・コア・カリキュラムという国が決めた学修目標があります。医学生が卒業時までに身に付けておくべき、必須の実践的診療能力(知識・技能・態度)に関する目標とされ、数年に一度改訂されます。医学部のカリキュラムの約3分の2がモデル・コア・カリキュラム、残りの3分の1が大学独自のカリキュラムになります。
これは医師という職業が国家資格であり、人の健康と生命を扱う職業であるため、ある一定のレベルに達していなければ国家試験に合格できず、医師免許を与えることができないためです。
つまり、医学部に入れば自分に合ったカリキュラム、自分の好きなことだけを追求するわけにはいかないということです。肝臓には興味があるから詳しいけれど、膵臓はあまり興味がないからよくわかりません、という医師では困るわけです。
そう考えると、通信制高校から医学部を受験する場合に、面接試験でアピールすべきことはいくつかありますが「医学そのものに興味があります」「苦手な科目があっても頑張って学びます」という姿勢を見せることは大切になってくるでしょう。
「集団でも行動できます」「休まずに学校に通えます」というアピールはもちろん必要です。
その日に初めて会う面接官に対しては、ただ「できます」と言うだけでなく、こういうことをしていたから大丈夫です、という理由付けが必ず必要です。これは通信制高校に通っていた医学部受験生だけでなく、すべての受験生が覚えておくべきアピールポイントです。
休まずに学校に通うということは、ただ体力があるというだけではありません。精神的に落ち込んだ時や、いろんなことが上手くいかない時、人間関係で悩んだ時も、学校に来て勉強を続けることができるか、ということも含まれます。通信制高校の医学部受験生はこのあたりを面接でアピールすることを考えるといいでしょう。
甲子園出場と医学部受験の違い
今回のインタビューで知ったことの1つは、通信制高校でスクーリング以外にも通学するコースがあるということでした。全国各地にあるサテライト教室に、授業動画を視聴したことを示す表やレポートを提出するために、週1回~週5回通学するコースがあるということです。
また、通信制高校にも部活動があり、全日制高校のインターハイにあたる定通大会も行われています。通信制高校の野球部が甲子園に出場することがありますが、これは日本高校野球連盟が設けている加盟要件を満たしたとされる高校に門戸が開かれています。
通信制高校の野球部が甲子園に出場する場合、生徒は同一の都道府県にいることが条件となります。そのため、多くの強豪校がそうであるように、通信制高校の強豪野球部も寮で集団生活を送っているところがほとんどです。甲子園で初めて勝利した通信制高校であるクラーク記念国際高等学校は、2018年に東北楽天イーグルスと完全提携した女子硬式野球部を創設しました。
通信制のスポーツコースが全日制より自由なカリキュラムを活かして、このように部活動に力を入れているのであれば、通信制高校に在籍しながら、塾や予備校の大学受験コースに通って学力を磨く医学部受験生がいても良さそうです。しかし、今のところそうした流れは大きな潮流ではありませんし、相談を受けることがあっても基本的に私の方から賛同することはありません。
多くの受験生を医学部に送り出してきた身としては、やはり医学部に行くことを考えるのであれば、多くの同年代の子たちと同じように高校に通い、学校行事に参加しながら受験勉強をする方を勧めます。
医学部が難関であることは事実ですが、医学部に入学することが目的ではありません。9割以上の医大生が医師国家試験に合格して臨床医になります。1日の多くを同学年のメンバーたちと一緒に過ごし、グループ学習をしたり、試験対策をする医大生になるのであれば、やはりある程度は集団で行動をすることに慣れておく必要があります。
学ぶ環境に多様性が生まれ、様々な経歴の受験生が医学部に入学することができる現在の環境は、一昔前の性別や年齢で不当に差別されていた時代に比べれば、非常に望ましいことだと思っています。それでもやはり、医師になるためにはハードな勉強や実習を潜り抜けて、医師国家試験に合格する必要があります。通信制高校から医学部を目指す場合は、医学部の面接官である教員が何を不安に思っているのか、よく理解した上で面接に臨むことが重要です。
通信制高校の多彩な現状については、今回の調査を通じて大変勉強になり、私自身の理解も深まりました。今後の生徒指導にぜひ活かしていきたいと考えています。





