
広がりつつある私立歯学部の編入学試験
こんにちは。
受験情報センター長の鈴村です。
私立歯学部は愛知学院大学を除く16大学で、何らかの形で編入学試験を行っています。試験科目は様々ですが、文系出身者でも受けやすい小論文や面接などを課している大学もあり、一度は別の学部に進学したものの、歯科医師になりたいと志す再受験生でもチャレンジしやすい試験形態です。
ほとんどの私立歯学部は2年次編入の形を取っていますが、これは解剖学実習などの専門科目が2年次から本格的に始まるところが多く、文系再受験生でも講義や実習について行けるようにという配慮でしょう。もちろん、編入させて放置というわけではなく、入学してからも補習を行うなど、大学ごとに様々なサポートがあります。
その他に、3年次編入学試験を行っている大学があります。今日は私立歯学部の3年次編入の含めた編入学試験全体について触れたいと思います。
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日本大学松戸歯学部が2026年度入試から3年次編入を新設
それではまず、2026年度入試から3年次の編入学試験を行う日本大学松戸歯学部の入試制度を見てみましょう。
出願資格としては、次の1~3のいずれかの要件を満たす者となっています。
1.出願時において、以下に挙げる分野の大学に2年以上在学し、73単位以上修得した者。ただし、単位修得見込みの者を除く。 |
【該当分野】歯・医・薬分野、看護・保健・衛生分野、健康科学分野
つまり、歯学部を含む医療系の大学(短大)を卒業または2年次以上在学した者が対象となっています。歯学部や医学部であれば、途中で何らかの理由で退学した人が想定されますし、他の医療系学部であれば進路変更ということが考えられます。
短期大学もOKとなっていますので、歯科衛生士や歯科技工士の資格を取得するための短期大学を卒業、または卒業見込みの人も受けられることができます。
つまり、医療系学部を志した人、あるいは卒業した人で、歯学部に再チャレンジしたい人が対象となっています。ただし、大学によって単位制度が異なりますので、出願前に必ず教務課(入試係)に問い合わせること、となっています。前学校の卒業証明書を見た上で、出願資格を満たしているかどうかを判断したいということでしょう。
試験科目は、【理解力の確認】と【小論文】【面接】であり、総合型選抜と同じ試験日であることから、同じ試験内容だと思われます。(面接の質問はもちろん総合型選抜の受験生とは異なります)
放校になった人たちの再チャレンジを想定
医学部や歯学部の進級が厳しいことは、受験していたことがある人ならばよく知っているでしょう。
歯科医師国家試験の合格率が60~70%台で推移している歯学部はもちろん、医師国家試験の合格率が9割を超える医学部であっても、最低修業年限での国家試験合格率は2024年度の文部科学省のデータを見ると、国立大学医学部87.1%、公立大学医学部87.9%、私立大学医学部81.4%、全体で84.9%となっています。私立医学部では全体の2割が6年間では卒業できないことになります。
国家試験の合格率が低い歯学部はもっと大変で、最低修業年限での国家試験合格率は、2024年度で国公立大学歯学部75.0%、私立大学歯学部44.0%となっています。私立大学歯学部は大学によっての差が大きいことが特徴で、最も高い昭和大学(現・昭和医科大学)で72.9%、最も低い鶴見大学で23.9%となっています。他にも20%台の大学が3校、30%台の大学が5校あり、勉強習慣のない学生が、6年間のどこかでつまずいていることが想像できます。
当然と言うべきか、留年を繰り返して退学(医学部や歯学部ではこれを放校と云います)になる学生も多く、とはいえ途中まで医学や歯学を修めた者であれば、もう一度チャレンジしたい、ないしは他の医療従事職に就きたいと考えるのは当然のことです。
そういった学生の受け皿として、私立歯学部の3年次編入学試験は考えられていると言えます。
鶴見大学歯学部が2年次編入学特待生を導入
こういった3年次編入を行っている私立歯学部は、他に北海道医療大学や奥羽大学、鶴見大学があります。いわゆる入試難易度ランキングが上位とは言えない大学が多く、再チャレンジしたいという学生を温かく受け入れる気風があります。
試験科目も、学力試験は「3年次から編入してもついて行ける程度の専門科目」が課されることが多く、面接試験は必ずあります。やはり歯学部の面接官が「この人なら真摯に学んでくれるだろう」と思わなければ合格は難しいでしょう。前歴を引きずっている受験生はそこで見究められてしまうと思います。
さらに、鶴見大学歯学部は編入学試験で入ってきた学生が非常に優秀であるということで、以前から広く編入学試験を行っていることを告知していましたが、2026年度から2年次編入学特待生選抜試験が始まることになりました。
編入学試験で合格し、入学手続きを完了した者で、2026年1月28日(水)の一般選抜1期試験と同じ内容を受験して、成績上位1位~3位であれば(ただし、200点満点中160点以上)初年度学納金が100万円免除されます。
鶴見大学歯学部の一般1期は、英語・数学より1教科選択、理科1科目選択の合計2教科入試です。文系再受験生であっても、英語と生物で受けることができるため、編入学試験で入学を決めた再受験生であっても狙ってみる価値はあると思います。
ライフワークバランス重視の時代と歯科医師
もう10年以上前のことになりますが「歯科医院がコンビニより多い」「歯科医師は儲からない」と言われて、一種のネガティブキャンペーンのような報道が相次いだことがありました。
2011年度は私立歯学部一般入試の志願者が4,256人と落ち込み、推薦入試などの年内入試と合わせても志願者が5,000人を切る時代がありました。
その後、ボリュームゾーンだった50代・60代の歯科医師が引退する時代になり、今度は「歯科医師が足りない」と言われ始めました。
また、保険診療と自由診療の組み合わせが容易な歯科医療は、保険診療に来た患者さんに自由診療を提案しやすいため、以前のような「削って、詰める」歯科医師のイメージから、超高齢社会を迎えて健康寿命を延ばすための口腔ケアの重要性が注目されるようになりました。
さらに、予約診療が主で、自分の好きな時間に働ける歯科医師の働き方が、ライフワークバランスを大事にする若者世代の価値観と合致するようになりました。特に女性の間では出産・育児を経て、自分のタイミングで仕事に復帰しやすいということで、女子学生の方が多い歯学部も珍しくなくなりました。
2025年度入試で私立歯学部の一般選抜志願者数は前年比約1割増の7,559人、学校推薦型選抜や総合型選抜を合わせると志願者数は8,000人を超えています。
歯科医師という職業が見直される中で、再受験生がチャレンジしやすい編入学試験は今後も拡充していくと考えられます。ただし、歯科医師国家試験合格率が急激に上昇することは考えられないため、自分に合った校風の大学を選び、納得した上で学ぶことが求められます。
いつも歯学部志望者には同じことをお伝えしているのですが「必ず歯学部は自分の目でキャンパスを見て、先生方と話をして選ぶように」伝えています。万人にとって良い大学は存在しないというのが持論です。国家試験合格率の高い大学が自分にとって最適とは限らないこともあります。ぜひ視野を広く持って、様々な大学を見て、入試制度を検討してほしいと願っています。





