「9年県内で働かないと違約金」は不当|医学部地域枠をめぐる甲府地裁判決について
こんにちは。
メルリックス学院代表の佐藤です。
2026年1月21日(水)、「山梨県内で働く約束で大学医学部の修学資金を貸す県のプログラムの違約金条項をめぐる訴訟」において、甲府地裁の判決が出ました。
判決の結果とそれに対する私見は本ブログ内に譲りますが、医学部を地域枠での合格を目指す方にとって見逃せない判決となりました。
本記事ではこのニュースの概要や争点を分かりやすくお伝えするとともに、このニュースから分かる医療問題についてまでお伝えしていきます。
医学部地域枠をめぐる甲府地裁判決事案の概要
山梨県は2019年、県内の医師確保を目的に、山梨大学医学部などの地域枠の学生に6年で総額936万円の修学資金を貸与する代わりに、医師免許取得後9年間は県内の病院で働く「地域枠等医師キャリア形成プログラム」を策定しました。
約束を守れば返済が免除されますが、守れない場合は年10%の利息をつけて返すうえに、違約金が最大842万円発生します。
自県大学出身者の割合が多い県にとって、とりわけ医師少数県にとっては地域枠離脱者が一人出ることで医療機関の死活問題になりかねません。
山梨県の場合、「地域枠を途中で離脱した場合は年10%の利子を上乗せした貸与額の一括返済と違約金842万円あまりを支払う」という違約条項の取り決めがあります。
違約金842万円は消費者契約法にも反し、問条項が無効であることを「消費者機構日本(COJ)」が山梨県を相手に係争中でしたが、2026年1月21日に甲府地裁で一審判決が出ました。
医学部地域枠をめぐる甲府地裁判決内容及び争点
医学部地域枠において卒後「9年間、大学が指定する区域や科で従事させる」ことは、労基法5条「強制労働の禁止」、労基法16条「賠償予定の禁止」憲法22条1校の「職業選択の自由」に反するという議論がなされます。
一方で「医療格差」問題は国の重要政策の一つであり、「今後の高齢化社会において、医療格差を必ず解決して、医療過疎地区でもしっかりと医療を回さなくてはならない」という大命題があります。
法律の大義名分の中で医療格差問題解決という国の重大施策をどう正当化していくかが今回の争点といってよいでしょう。
今回の医学部地域枠をめぐる甲府地裁判決で「消費者機構日本(COJ)」は、全国各地で同種事業があるが、特に山梨県は高額な違約金を課していると指摘しました。
消費者契約法は、「事業者に生じる平均的な損害額を超える部分は無効」と定めているとし、2023年11月に提訴したことが始まりであります。
それに対し、甲府地裁は山梨県の地域枠従事医師は消費者保護法が規定する「個人」ではなく「事業者」であることを理由に消費者保護法の適用を回避すべきと主張しましたが、今回の甲府地裁判決は消費者保護法の適用を認めました。
医学部地域枠をめぐる甲府地裁判決における私見
たしかに、消費者契約法の趣旨に沿えば、「消費者機構日本(COJ)」の言い分はもっともです。
一方で、今回の山梨県は日本でも有数の医療過疎地区で、しかも厚生労働省の調査では「他府県からの医師のなり手が少ない」という事情をとりわけ考慮しなくてはならない県であります。
※詳細『日本人の9割が知らない医学部受験の世界』(著:佐藤正憲、晶文社刊、2026年)
地域枠制度を考える際、必ず疑問視されることがあります。
20歳前の学生に
・「6年後の自らの人生の既定路線を敷いてしまってよいのか?」
・「しかも借金を負わせてるのはどうなのか?」
という疑問です。
さらに現役で医大に入学できて卒業して24歳、そこから9年間は人生のキャリアにおいて最も重要な脂ののった部分です。
この時期を逃したら、「医師としての旬」を逸してしまうということは、医学部受験業界でも議論されます。
一方で「医療格差」問題は国の重要政策の一つです。
繰り返しますが、「今後の高齢化社会において、医療格差を必ず解決して、医療過疎地区でもしっかりと医療を回さなくてはならない」という大命題があります。
なぜ、山梨県は修学資金の返済と利子(年利14.6%)のみではなく違約金まで課したかというと、先述のような山梨県側の切実な事情にも目を向ける必要はあると思います。
本裁判の今後の展開予測
本裁判は、今後、高裁、最終的には最高裁まで争われる可能性が高い事案ではないかと予想します。
「国政選挙で1票の価値格差を争う事案」で、地裁や高裁レベルでの判例ではしばしば違憲判決が出されるものの、最高裁では違憲判決に至ったケースはいまだありません。
かかる最高裁の動向から予想しても今回の医学部地域枠をめぐる甲府地裁判決で最高裁まで争われた場合、「違約金の設定は県の裁量を逸脱したものではなく、医療格差問題が叫ばれる中、地域医療に従事する医師を確保する策としては合理性を著しく逸脱するものではない」という内容の判決が出されることを予想します※。
※詳細『日本人の9割が知らない医学部受験の世界』(著:佐藤正憲、晶文社刊、2026年)
逆の視点からすると、18歳の世間の事情を知らない若者に30代前半までの足枷を負わせるのは、一人の人生設計を考えても非常に考えさせられるものがあります。
医学部に入学後、勉学を進めていけば行くほど、医学に対する別の視点や観点が当然、芽生えるからです。
加えて先述の労基法5条、16条、憲法22条1項の観点からも更に深く議論を深めていくべきでしょう。
一方で注目したいのは、2021年度から山梨県は違約金条項を新しく設けたという点であります。
ここから私の観点で推察できることとして、コロナ禍で台頭してきた美容外科についてです。
コロナ禍が終わった後、美容外科業界においても勢いが収束してきた感がありますが、高い報酬とプライベートにおけるQOLを求めて多くの医師が美容外科業界に転職したのもこの時期であります。
このような時代背景もあり、今回の違約条項が設けられたと考えるなら社会事情にも合わせた司法判断が待たれるところであります。
法律も制定当時からみると社会背景が大きく変わってくるので、それに合わせて運用されていかなくてはならない正しく教科書事例的な題材ともいえましょう。
まとめ
以上、「山梨県内で働く約束で大学医学部の修学資金を貸す県のプログラムの違約金条項をめぐる訴訟」について、争点と今後の見通し、そして私見をまとめました。
医師一人の人生と、国として解決しなければならない地域医療の問題。
本ニュースは、一概に山梨県が悪いと断罪してよいものか、考えさせられるものがあります。また、地域枠を受験する受験生は、もう一度入学の条件を見直し、自分の医師人生を考えてもよいでしょう。
本事案については、引き続き展開を追っていきたいと思います。
本件に関わる地域医療の問題は、拙著『日本人の9割が知らない 医学部受験の世界』でもより詳しく語っています。
さらに知見を深めたい方は、ぜひ一度お読みいただければ幸いです。
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